航空宇宙研究部会の発足にあたって

木村小一

On the Start of the Aerospace Navigation Research Committee

Koichi KIMURA


 定款によると、日本航海学会は、航海に関する 学術を考究し、その向上をはかるとともに海技の 調査研究を行い海上産業の発展に寄与することを 目的とすることになっている。
 その学会が、航法関係の学会の国際組織である IAINに日本の代表として加盟するに当たって、 航空や宇宙の航法についての活動もすることが必要 となった。
 すでに本誌にも紹介したが、IAINの中にも同じ ような例がある。カナダの加盟団体はカナダの 航空宇宙学会であるが、このカナダの学会の中には、 その中の組織としてCanadian Navigation Societyが あり、数年前には、その主催で「カナダ海をみる」 というシンポジウムを開いて多数の航海関係の発 表が行われている。
 IAINの加盟学会ではないが、アメリカの航空宇宙 学会では毎年、海上関係の研究集会が開催されている。

 このように、学会はその名前や定款にこだわる ことなく、関連する学問分野はどんどんと扱って いくことはきわめて自然なことである。
 本学会においても、従来から、IAINの国際会議には 常に1〜2編の航空関係の論文を提出しているし、 また、「航空と安全」「航法」などのシンポジウムの 際には航空関係の発表も加えて行われている。
 また、最近は春秋の講演会には経常的に航空関係の 発表が行われるようになってきているのはそれらの 現れと見ることができよう。

 航法システムについて見ても、デッカ航法システムは、 開発の当初より海空の両方を対象としているし、 ロランCシステムは、最近アメリカでは、陸上の航空 標識の電波の及ばない海上などの補間的な航法システム として承認され、すでに小型機やヘリコプタなど2万機 が使用しているとされており、オメガ航法システムも 航空航法用として多用されるようになってきている。
 これらは海から空へ移った技術の例であるが、逆に、 慣性航法装置は空からというよりは、宇宙から空、 そして空から海へ移りつつある技術の一例である。
 このようにして、海空の航法は、それぞれの特長を もちつつもお互いに相互乗り入れをしており、海の 航法を研究する人が航空航法や宇宙航法の知識を持つ ことも重要である時代となりつつある。

 更に、最近は陸上車両の航法が急速に脚光をあび つつある。イギリスの航法学会の1985年秋のシンポジウム NAV85は陸上車両の航法と移動用の測位をテーマとして 行われ、ヨーロッパとアメリカからのものを含め32の 論文が集まっている。
 私見によれば、携帯用無線電話や水晶時計などが 個人の持ちものとなっているように、個人の航法 (personal navigation)の時代も近い将来に実用化される と考えられている。
 自動車の航法や個人の航法の時代がくると、その航法装置 の数が船舶や航空機を対象とした場合に比べて二桁も三桁も 増大するので、航海技術に革命をもたらす可能性も考えられる。
 航法以外の分野、たとえばウェザールーティーング、 交通流の取扱いなどでも、海上と航空との共通する学問分野 も少なくない。

 このような航法関係の諸情勢および国際的な配慮とを考え、 学会に航空および宇宙関係の研究を行う研究部会の設置が かなり以前より話題にのぼっていたが、3年前にとりあえず、 航法研究部会の中に一つの分科会を設けて、活動を行う ことになった。
 この航空宇宙分科会は毎年1〜2月に分科会の研究会を 開催してきたが、本誌「航海」にその都度報告してある とおり、予想外の盛況を得ることができ、その使命を 果たしていた。
 これらの成果をふまえて、学会は本昭和61年度から 航空宇宙研究部会を発足させることになり、所要の予算 措置が講ぜられるとともに、去る5月に開催された総会に おいて、発足が正式に認められた。

 編集委員会では、この航空宇宙研究会の発足を受けて、 この「航海」第89号記念特集号が刊行されることになり、 本年1月の航法研究部会の航空宇宙分科会での発表論文 4編に6編の新論文を加えた充実した内容の会誌が構成 された。
 これらの論文の内容を拝見すると、やはり航法の分野の ものが多いが、その他にも運用、交通工学、航空管制、 航空事故と法律といった多方面にわたっており、航空の 分野でもきわめてアップデートなものばかりであり、 本会の会員の大多数を占めている海事関係者にとっても 有益なものであろうと信ずることができる。
 今後も「航海」には定常的に航空あるいは宇宙に関する 論文や解説を掲載して頂くことを期待するととともに、 機会をとらえて今回のような特集号を考えていただきたい ものであると希望しておきたい。

 研究部会としての実質的な活動は秋以降になると考え られるが、その運営に当たっては、航空宇宙研究部会が 日本航海学会の研究部会であることを常に念頭に置いて、 多くの会員に親しまれる部会としなければならない。 そのためには、船舶と航空あるいは船舶と宇宙との 境界領域にかんする話題などもなるべく多く取りあげて いくことも必要であると考えられる。
 何としても、この研究部会が今後発展していくためには、 会員諸兄のご助力がなければならないので、いろいろと ご意見をお寄せ願いたい。また、部会として今後取り組む べき重点の一つに航空宇宙関係の会員の増加がある ので、この面でも協力をいただければ幸いである。

「航海」第89号 pp.4-5(昭和61年9月)


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