平成17年10月21日の講演会・運営委員会の報告

幹事 田嶋裕久


  1. 研究会講演会

     平成17年10月21日(金)13時30分より、神戸大深江キャンパス 4203講義室において研究会講演会を開催した。
     参加者は20名で、3件の有意義な発表と質疑が行われ 15時30分に終了した。講演題目、講演者(敬称略)及び 講演概要は下記のとおりである。

    (1) 「神戸航空衛星センターとMSASの概要」
    〇関 司(航空局)

     運輸多目的衛星MTSAT(Multi-functional Transport Satellite)の新1号機MTSAT-1Rが2005年2月26日に H-II F7ロケットで打ち上げられた。
     MTSATの気象ミッション運用は気象庁の気象衛星 センターが、航空ミッションとバス運用は航空局の 航空衛星センターが担当している。

     航空衛星センターは、信頼性を考慮して兵庫県の 神戸航空衛星センターと茨城県の常陸太田航空衛星 センターの約500 km離れた2ヶ所の施設で2重化 されている。
     さらに、各施設で電源は電力会社から経路の異なる 2系統で受電、センター内は2系統で配電、非常用 発電設備や無停電電源設備(CVCF)を配置、空調も 2重化、免震構造の建物により地震による揺れを 抑え機器等の障害発生を防ぐなどの対策が行われて いる。

     GPS等の周回衛星を補給する、衛星による広域に わたる補強情報を航空機等に提供するシステムとして SBASがある。
     MSAS(MTSAT Satallite-based Augmentation System) はSBASの1つであり、日本の飛行情報区において、 航法のためにGPSを利用する航空機に対しGPS補強 情報を提供する。この信号は、国際民間航空機間 (ICAO)の技術基準に適合している。

     MSASのインテグリティ機能としては、GPS衛星 毎の不具合情報(“使用不可”など)及び現在提供 されている補強情報の信頼性を、タイムリーに 航空機に提供する。
     航空機は、インテグリティ情報を用いて、自機の 飛行フェーズ(航空路、ターミナル、進入等)に 応じて使用可能なGPS衛星を判断し、安全に航行する ことができる。

     MSASのレンジング機能は、航空機が位置情報を 得るためには、通常4個以上のGPS信号を同時に 受信する必要があるため、MTSATからGPSと同様の 測距信号を提供し、1個のGPS衛星が追加された のと同様の効果を持たせる。

     MSASのディファレンシャル補正機能は、GPSの 位置精度を補強する機能である。SBASは、GPS衛星 毎の誤差を航空機に提供し、水平で数m程度まで 位置精度を向上させることができる。
     ディファレンシャル情報は、大別すると電離層に 起因する誤差とそれ以外の誤差(衛星位置精度、 クロック誤差精度等)に分離して伝送される。

     現在、本運用に向けて試験的な運用を行っている。


    (2) 「ATM/CNS、RNAVへの取り組み」
       (空域の効率的利用と安全性の向上)
    〇森岡日出男(全日空)

     将来の航空交通量増加へ対応し、安全で効率的な 航空交通を達成するため、各種の対策が進められて いる。
     ATM/CNS(Air Traffic Management/ Communication, Navigation, Surveillance)、RNAV(Area Navigation) へエアラインが期待する効果としては、安全性の 向上、運航乗務員のワークロードの軽減、飛行経路 の短縮、最適高度の獲得、定時性確保、燃料節減、 通信品質の向上、最低気象条件の緩和(就航機会の 拡大)、冗長性の向上(代替経路、方式)、騒音軽減 が上げられる。

     RVSM(Reduced Vertical Separation Minimum)は、 FL290(高度29,000 ft)以上の計器飛行においても 1,000 ftに短縮した垂直間隔を適用する方式であり、 2000年2月24日以降は洋上に、2005年9月30日以降は 国内の航空路に導入された。
     洋上における縦・横間隔の短縮のため、RNP (Required Navigation Performance)10とCPDLC/ADS (Controller-Pilot Data Link Communication/ Automatic Dependent Surveillance)の導入により 航法性能要件と位置通報の精度を向上させることで、 セパレーションの短縮が可能となる。

     地上無線施設間を直線で結ぶ従来の航法と比較して、 RNAV航法はFMS(Flight Management System)を利用 したより安全かつ効率的な航法である。
     その効果としては、安全性の向上、航空容量の拡大、 経路短縮による効率化、定時性の確保と燃料節減、 パイロットと管制官ワークロード軽減、騒音軽減 がある。
     RNAVの応用として、エンルートで49本の国内ルート が設定されている。現在の日本でのエンルートRNAV (2004)では、従来の経路と比較し数マイルから20 マイル以上短縮されている。
     ターミナルでは函館、伊丹、高松、福岡、鹿児島、 アプローチでは新千歳、函館、那覇でルートが設定 されている。
     諸外国ではFMS NAV Databaseを利用したRNAV アプローチとして、2004年にGPSオーバーレイ アプローチ、2005年以降にGPSスタンドアローン アプローチが計画されている。


    (3) 「欧米の航空交通の将来計画」
     〇福田 豊(独立行政法人 電子航法研究所)

     米国において次世代航空交通システム(NGATS: Next Generation Air Transportation System)が 航空交通の安全、保安、移動性、効率性、容量の ニーズに対応するための統合計画を作成することを 目的として、2003年12月にVISION100法(Century of Avation Reauthorization Act)が成立し、2004年 12月にFAA長官がIntegrated National Plan(統合 国家計画)を連邦議会に提出した。
     その背景として、安全と国家安全保障の課題への 対応、容量の拡大と市場の変化、国際的なリーダー シップの強化のため、今日の航空システムは21世紀 のニーズには適合できない、個別の対応法では機能 しない、航空システムの全体的な変化が必要である という問題があった。
     組織としては、FAAとNASAのほか複数の省庁の職員 が参加したJPDO(Joint Planning and Development Office:共同計画開発局)等が設置された。統合 計画書は、変化の必要性、2025年の航空交通の国家 ビジョン、システムの目標と性能の特性、運用概念、 成功へのロードマップ、変化の過程、変化の戦略、 次の段階の内容で構成されている。

     欧州では、シングルヨーロピアンスカイ実行 プログラム(SESAME:Single European Sky Implementation Programme)がある。欧州の空域は、 航空交通流を考慮せず国境により細分化されており、 2003年では60ヶ所以上の管制センターがある。
     欧州の航空交通管理についてみると、25,000 フライト/日で約860万フライト/年の交通量、 航空交通管制センターと航空路は運航者のニーズ ではなく国境に基づいて設定、軍の空域が主要な 航空交通流の中に存在、混雑が遅延と運航コスト に影響、今後20年間の交通量の予測は2倍以上 (特定の国では4倍から5倍)、2025年までに3倍 の交通容量が必要という状況である。
     SESAMEは断片的なATMの導入の中止、研究から 運用への統合計画、機上と地上の整備の同期、 技術/運用の解決方法と欧州委員会の制度/規制 /経済的な手段との組み合わせ、計画、研究、 開発、整備を目的としている。
     また別に、欧州の戦略的研究課題(SRA: Strategic Research Agenda)という報告書が 作られている。

     航空交通の発展は経済成長には不可欠であり、 2倍の交通需要に対応する航空システムが 望まれている。
     欧米ともに国と産業界が連携して、航空交通 の2020年から2025年を目指し、統合された未来 計画がまとめられ、実行が進められている。


  2. 研究会運営委員会

     研究会運営委員会は同日12:10から13:10まで、 4203講義室において開催された。出席者及び審議事項は 下記の通りである。

    2.1 出席者

    石出、惟村、長岡、天井、田嶋

    2.2 審議事項

    (1)平成17年度前期活動報告

    • 平成17年度会計中間報告を行い承認された。

    • 平成17年5月27日に東京海洋大学・越中島 キャンパスで開催された春季研究会講演会の概要 について報告がなされた。

    • ニュースレターが17年度1回(第52号)が 発行されたことが報告された。

    • 研究会のホームページが作成されたことが 報告された。


    (2)平成17年度後期活動計画等

    • 今回の講演3件について、学会誌「NAVIGATION」 への投稿を講演者に依頼することとなった。

    • 平成18年度春季研究会講演会は、発表課題として MTSATの通信、ETS-8、新しい航空機、画像伝送関連 について検討することとした。

    • ニュースレターの作成は17年度後期1回以上発行 することとした。

    • 研究会のホームページに、入会案内を 掲載することとした。



「NAVIGATION」第163号 pp.105-107(平成17年12月)より


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